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金曜日, 1月 15, 2010

『銃・病原菌・鉄』 ジャレド・ダイアモンド




 また読んだ本のことについて書きますが、それはイコールあまりクライミングをしていないということです。あまりクライミングをしないで本を読んでいるということは、残念ながら、イコール体調が悪いということ。なんか先月の中ごろから咽頭系の調子が悪く、やたら炎症を起こしていて今は抗生物質を呑んで抑えているところなんですね。咽頭の感染が歯茎に進んで歯痛まで起こしておまけに咳の止まらない数日間などもあり、心身共にやられています。早く復活したい。

 えー、今回読んだのは『銃・病原菌・鉄』という大ヴォリュームな本。人類史に関する本ですが、焦点となっているのは「なぜ異なる大陸で人類は異なる発展を遂げたのか?」という謎。著者はすぐにある特定の人種の生物学的な優位性を否定し、文明の生まれた地域の環境的な差異を細かく検証してゆきながら文明の発展する方向性、伝播性、その盛衰などを考察してゆきます。環境的な差異でまず重要とされるのは栽培化に適した食物の分布、家畜化するのに適した動物の分布。なぜなら食料生産が始まり人口が増え集権化された社会ができると共に、技術や軍事力を高める余力がつく。するとヨーロッパ人が新大陸アメリカに進出していったような「持てる者」から「持たざる者」への流れが生まれてきます。
まぁ、ここまでは一般的な話なんですが、ひとつ自分には目新しかったのがそういった他大陸の侵略において大きな役割を果たした『病原菌』の存在。実はこの病原菌を育む要因というのは、「動物の家畜化」にあるということ。豚インフルエンザなんかもそうですが、多くの病原菌は動物対象として存在していて、それが変異して人間に感染するようになるそうです。しかしそういった感染経路を作るには動物が人間にとって身近である必要があり、家畜化というのは病原菌にとって新たな宿主を作る格好のイベントだったと。アメリカ大陸では動物の家畜化が、それに適した動物の少なさゆえ限定的だったのに対して、ユーラシア大陸では家畜化可能な(要は家畜にして有益な)動物の種類が多く、人間と家畜の歴史も長い。その長い歴史のなかで天然痘やらなんやらをどんどん培養して、侵略者と一緒にアメリカ大陸に輸出していった。天然痘は侵略者がアメリカ原住民を殺すよりももっと早く、しかも勝手に、敵の人口を減らしてゆく。そしてヨーロッパ人たちはすでにその病気に対して免疫を持っている。なんともアメリカ先住民に対しては不利な戦いだったわけですね。
 
 あともうひとつ面白かったのは、農耕など進んだ技術を持って別の地域へ進出していった民族がそこの環境に適応する形で狩猟採集民族へと逆戻りしていったパターンが多数あるということ。そしてそれと同じようなパターンがさらに高度な文明のなかでも起きているという事実。たとえば鎖国中の日本で銃の製造・使用に厳しい規制がひかれ江戸時代にはまったく銃の改良が行われなかったこと。ペリーさんがやってきて日本人は大砲の威力にたまげたらしいけど、もし江戸時代にどんどん銃器の改良が行われればそんなことにはならなかったかもしれない。中国でも多くの技術が生まれそしてヨーロッパとは違い多くの技術が失われていったようだけどその原因を国のまとまりに説明を求めているところなんかは結構面白い。ヨーロッパはずっと色んな国が入り乱れてある技術がある国で否定されても、隣の国がそれを選択することもある。しかし、中国は昔からひとつの国にまとまっている時間が長いからひとつの政策が何か有益なものを葬りさってしまうと、その技術は生き延びることができないという説明。
 
 上に書いたのはこの本のなかの本当に一握りの部分ですが、人類史を動かしたさまざまな要因を東アジア、太平洋域、オセアニア、新旧大陸の衝突、アフリカ大陸それぞれで具体的に検証しているので他にも興味深いトピックが満載でした。仕事柄ユーラシアからアメリカ大陸への人類の移動に関しては身近なトピックでしたが、その後アメリカ大陸でどう人類が発展していったか、それがユーラシア大陸とはどう異なっていたかなど特に興味深く読みましたね。

TEDで著者の公演を見つけたので貼り付けておきます。いかに文明、社会が崩壊するか、という公演ですがこの本と重なるところも沢山ありますね。“View Subtitle”をクリックすればサブタイトルを表示することもできます。もちろん日本語も。







土曜日, 12月 19, 2009

"Being Caribou: Five Months on Foot with an Arctic Herd " written by Karsten Heuer



 久しぶりに長めの体調不良。12/11から喉の痛み→大量の鼻水→咳→熱→頭痛とめまぐるしく症状が変化してやっと12/17に復活の兆し。一時は医者から肺炎かもなんていわれて胸のレントゲンを撮ったりしていましたが、どうやらその後連絡がないので(このあたりがカナディアンシステムだなぁ)何事もなく終わりそうです。昨日は軽くジムで登ってみたがオーバーハングを登ると顔が青白くなっていた。しばらくは慣らし運転でいきます。

 というわけで引きこもって本を読んでいたので、また読んだ本の紹介。著者のKarsten Heuerさんは生物学者で国立公園のワーデン(レンジャー)。奥さんのLeanne Allisonさんは映像作家。この本で描かれているのはその二人が2003年春から秋にかけて季節移動するカリブーの群れと共に極北を旅した記録。ユーコン準州のOld Crowから出発し、アラスカのKaktovikの南、The Arctic National Wildlife Refugeで折り返し、またOld Crowまでほぼ全域をスキーか徒歩で踏破しつつ、カリブーの群れを追うという壮大な旅。カリブーの群れが子供を出産し、夏を過ごす北極海沿岸部のThe Arctic National Wildlife Refugeの一部1002 Sectionがこのストーリーのひとつの焦点。油田開発地として候補に挙がっているそのエリアは、カリブーの季節移動の折り返し地点であり、子供を出産する重要な場所。保護と開発の戦いが80年代から続いていて先住民グループの中でも保護派と開発派がいるという複雑な政治状況やブッシュ政権下の激烈な開発運動にさらされてきた背景があります。
 彼らの旅が強烈な政治的メッセージとなることは困難だったようですが、その体験(Being Caribou カリブーになる)から得たことは、一般の読者へ強いメッセージとなるように感じます。数字や生態の科学的な分析とは対極にある体験からくる身体感覚によって引き出されたメッセージがこの本の中にはたくさん詰まっていました。

 彼らのホームページ(Necessary Journeys)から"Being Caribou"のフィルムやその他背景を知る資料を見ることができます。ちなみに今年のバンフ・マウンテンフィルム・フェスティバルで上映された"Finding Farley"もかなり良かったそうです。ちなみにこのご夫婦、キャンモア在住だそうで。色んな人が結構身近にいるものですな。





火曜日, 12月 15, 2009

"Epic Wanderer: David Thompson and the Opening of the West" written by D’Arcy Jenish



デイビット・トンプソンって誰?という人のほうが多いと思います。自分も最近までそんな感じでした。

 カナダの短い歴史において19世紀初期というのは毛皮交易とそれに伴う西部開拓の時代と呼べると思いますが、このデイビット・トンプソンというのはその時代の代表的な毛皮交易会社ハドソンズベイカンパニーとノースウェストCO.で重要な働きをした人物。六分儀と天文学を駆使してまだ空白部だらけだった北西部を地図に記してゆきます。同時代にコロンビア川の河口が発見され、その頃まさにカナディアンロッキーをハウズパスから越え大分水嶺西部領域にたどり着いたトンプソンは大河コロンビア川の全域を解明し、モントリオールまで毛皮を運搬せずに太平洋へ直接運ぶルートの開拓へ乗り出しました。この本の中では毛皮交易ルートの開拓よりも彼のあくなき冒険心と地図の空白部を埋めるという野望がコロンビア川全域解明の動機としてドラマチックに描かれていますが、そこのところはちょっと鼻につく感じ。そのあたりは著者の想像に任せときましょう。
 
 コロンビア川河口までたどり着いたトンプソンはやがて毛皮交易から引退し、オンタリオのウィリアムスタウンで第二の人生を始めます。そして数十年の旅の間に集め続けた川の緯度経度を元にカナダの東と西をカヴァーする地図を作りあげます。それがこれ。1819年に作られたそうな。


 時はアメリカとカナダ自治区(イギリス)がお互いの領土を広げるために火花を散らしていた時代。現在のオレゴン州領域を得るためにトンプソンの地図は絶大な威力を発揮するはずでしたが、なぜか彼の地図はあまり省みられず、イギリス政府からもらった地図への報酬はたったの£150。年金を期待していたトンプソンにとってはかなりの痛手。やがて毛皮時代というすでに過去になるつつある時代に活躍したトンプソンは忘れられ、借金の返済にいそしむという不遇な老後を経て1857年に亡くなります

 1870年台。大陸横断鉄道建設の始まる時代。作成から50年の時を経てが彼の地図がここで活用されたというからその正確さには驚くばかりです。その頃ロイヤル・ティレル博物館の名になっている地質学者ジョセフ・ティレルがトンプソンの日記を編集し出版。これを期に死後30年経ってから巷の人々がトンプソンという人物の偉業を本当に理解しはじめました。生前に理解されず死後本当に評価され始めるという話はよくありますが、年老いたトンプソンが方々に借金のお願いに行き、省みられない手紙をイギリス政府へ送り続けるあたりのくだりは結構涙もの。詐欺同然の手に引っかかり毛皮商人時代に蓄えた資産をほとんど取られたりしてますからね。原野に長けた人間の都会での弱さがよく出てます。

 平易な英語で書かれているのでデイビット・トンプソンを知る最初の一冊に良いです。読むときはパソコンの前に行きGoogle Mapの地形地図を見ながら読み進めると面白いです。川を頼りに開拓が進むので現代人が移動するルートとはかなり外れていて興味深いですね。



日曜日, 12月 13, 2009

"Explorers of the infinite" written by Maria Coffey


寒い日が続いています。昨日は体感温度20度以下ということでハフナークリークへ。パートナーが風邪気味ということで早めに帰ってきたら自分も風邪をひいてました。喉が焼けるように痛いです。しばし休憩モード。

夏が終わってから色々と本を読んでいたのでそれの紹介。



サブタイトルに"The Secret Spiritual Lives of Extreme Athletes-and What They Reveal About Near-Death Experiences, Psychic Communication, and Touching the Beyond"。エキスパートアスリート、エクスリームスポーツアスリート(クライミング、ベースジャンプ、フリーダイビング、etc)、冒険家の極限の経験の末に現れるいわゆるベーシックな科学では説明のつかない体験、未知なるものの出現、究極の集中とそれにともなう世界との一体感などを紹介しつつ、それに答えようとする宗教や現代の先端科学を幅広く紹介しています。本の中に極限の状況に置かれた者とその愛する人との間に起こるテレパシーのようなものもたびたび紹介されていますが、著者自身かつての恋人をエベレストで失い同様の感覚を覚えているようで、どちらかというと一歩引いた立場から未知なる現象を探っているというよりは、よりそういった感覚に親近感を抱いている人間としてこのテーマに取り組んでいる様子。極限状態の末に現れる現象を科学的に説明してくれよ、という理性だけで読もうとするとあまり面白くないかもしれないけど、もう一歩入り込んで自分のプチ極限的体験と照らし合わせながら読むと結構面白いです。バンフブックフェスティバルにてJon Whyte Award受賞の良書。




木曜日, 2月 07, 2008

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語

最近読んだ本の紹介です。




『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』 
スティーヴン・ジェイ グールド 著


カナディアンロッキーヨーホー国立公園にあるバージェス頁岩を中心に繰り広げられた科学者たちの研究、誤解、あらたな発見を描いた作品。
バージェス頁岩でのカンブリア紀(5億7000万年前から5億年まえごろまで)の化石の大量発見。そして、そこから新しい進化の形態が導き出されます。しかし、その過程は多くの誤解や進化という概念に人間が持つ強い先入観に阻まれ、一筋縄ではいかなかったようです。そんなバージェス史を洗い直し、いかに誤解が生まれ、いかに科学という客観性に富んだ活動が社会的、宗教的な先入観に彩られているかを交えながら、奇妙な生物たちが明かす進化の新しい形態を饒舌ともいえる筆致で描いた大作。
進化論の語る進化が絶え間ない改良と文字通りの”進化”だと思っている方は一読するのを薦めます。古生物学としての解説はかなり細部に渡り隅々まで理解するのは困難ですが、それでもグールドの語るダーウィンの進化論の核心部が頭の中で木霊するほどすり込まれました。