土曜日, 3月 15, 2008
行方知れずの青年
お客さんをホテルへ案内する仕事をしている。
色々なお客さんがいる。
そのなかでも少し前に案内した青年はちょっと変っていた。
よれたジーンズに北緯60度の街に似つかわしくないよれたジャンパー。
旅をしているようだけどあまり目的もなく、
会話もはっきり言ってあまり面白くない。
コミュニケーションが上手くなく、
自分自身のこともオーガナイズできていなくて、
しかも時間にルーズ。
少し面倒だな、と思った。
数日後、そんな彼を今度は反対に郊外のホテルから街へと送った。
相変わらず予定も目的もなく、
ただ南へ向かう、それだけが決まっているようだ。
何度も”何がしたいの?”という質問が喉まで出掛かった。
しかし、その質問はしてはいけないような気がした。
そんな青年を助手席に乗せて運転していると、
なんだか昔の自分を乗せているような気がしてきたからだ。
目的はなく、希望は少なめ、
それでいて、とにかくどこか別の場所へ行きたくて、
でも行ってみたら何か違っている。
そんなことの連続。
幻滅して、何に幻滅しているかと考えてみたら、
結局また自分自身に幻滅していることに気づく。
そしてまた別の場所へ。
そんな悪循環。
”何がしたいの?”
怖い言葉だ。
自分で”何がしたいのか分からない”というのは平気でも、
人から”何がしたいの?”と聞かれるのは怖かった。
だから何となくそれは言ってはいけないような気がした。
そんな青年に何かしっくりくる言葉をかけようと思った。
ぼくにはにはそういう言葉を掛けてくれた人たちがいて、
時に救われるような言葉もあったから。
でも、結局街につくまでに彼の役に立ちそうな言葉は見つからなかった。
だからとりあえず笑顔で青年を見送った。
そうすると彼も笑顔を返してくれた。
頼りない笑顔だった。
壊れたバックパックは重く、
やぶれたジーンズはあまりに寒い。
言葉ひとつ見つからない頼りない大人である自分。
そして、雑踏に消えた頼りない青年。
雑踏に消えた彼の行方はもう分からない。
そして、自分の行方もまた分からないことに気づいた。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
3 件のコメント:
まだ横旅の途中なんだね
JIROさんの場合は、クライミングの途中かな
感動!涙が出そうになりました。
人は皆、自分探しの旅路の途中ですね!って誰かの言葉か?
コメントを投稿